ギャラリー椿 presents

小浦昇 展 -月影綺談-
2006年4月17日(月)−28日(金)


IDEFINITE PLAN  ed.80 33×45.5p  銅版画

東京都中央区京橋3-3-10 第1下村ビル1F  TEL 03-3281-7808
a.m.11:00〜p.m.6:30(日曜・祭日休廊)

http://kgs-tokyo.jp/tsubaki.html

・・・今展は、2003年の展示以来、3年ぶりの展覧会になりますか。

2003年の展示が終わりましてから、その後家族が病気になってしまい、しばらく制作できる状況では、なくなってしまったんです。それが取りあえずひと段落したら、今度は作品が暗くなってしまったんですよ。自分では一生懸命作っているつもりだったんですけれども、出来あがると「すごく寂しいね」とほかの方から言われるようになってしまって・・・。元々版画の手法には、連続性がどうしても必要なんです。

・・・連続性ですか?

版画は、油絵のようにいったん手を止めて眺めているわけにはいかないんです。次から次へと進むプロセスがありますので、連続する時間がある程度必要です。それでタブローを描いていたのですが、それが寂しい絵しか描けなかったんです。ですから版画は3年ぶりです。一昨年から下絵を考え始めて、昨年の春先に、一昨年の作品が少しでき始め、でもその時は、まだ勘が戻らなくて、ようやく昨年ぐらいから戻り始めてきました。

・・・それは大変でしたね。

今までは時間が足りてなかったり、時間の合間合間で刷らなければならなかったので、全部強い調子で版に規制をかけていたように思います。それで今回は、手間の掛かるものはたくさん時間をかけ、薄い調子の必要な作品には薄い調子をつけてしまおうと思ったんです。色も多少今までの青と違うんですよ。雁皮刷りも復活もさせましたし、仕上がりはイメージ通りです。かなり完成度としては満足した作品ができたと思っています。今回制作した薄い調子の作品は、今までにないような緊張感を醸し出していると思いますよ。

・・・復活されたということですね。先ほど言われた「薄い調子」というのは、グラデーション(階調)の部分を指していらっしゃるのですか。

作品によっては、グラデーションの濃い作品もありますし、極端に薄いグラデーションの作品もあるんです。紙質が違うと作品の印象が変わってしまうんですよ。薄いグラデーションの場合は雁皮刷りにするなり、分けているんです。

・・・分けるというのは?。

技術としてどこまで細かい版を作れるかなんです。薄い調子のグラデーションの幅をどれだけ微細にするか。10段階のグラデーションを考えれば分かりやすいかもしれないですね。例えば後半の5-6段階は一般的な版画用紙で刷れるとします。雁皮刷りの場合は、1-6段階ぐらいまでの連続したグラデーションができるんです。雁皮刷りはインクがたくさんのりませんけれど、細かい調子を連続して刷ることによって、淡い色調や繊細かつ濃密な表現ができるんです。ですから、そういう画面の構成やマチエールが欲しいときは、雁皮刷りで刷ればいいわけです。もっと強い調子の色が欲しいときは、雁皮刷りを外す。その代わり細かいグラデーションは飛び飛びになってしまうわけです。要するに紙の質で違うんです。

・・・紙によってそんなに違うと知りませんでした。ただ、小浦さんの作品は、薄いグラデーションの方が小浦ワールドのイメージに、近いような気がするのですが・・・。

そうなんですけれども、ずっと制作していますと、段々インクの薄いのが物足りなくなってきて、雁皮刷りを外し始めるんです。外せばインクがたくさんのりますから、それが積み重なっていきますと、インクの発色が限界まで来てしまう。限界まで来ると今度はそれをまたバラし直す作業がはじまります。でもそれは緊張感のある画面を拵(こしら)え直すという契機にはなるんです。ただ技術は技術としてあるんですけれども、精神的落ちこみというのは自分では分かりません。描いてるときは一生懸命なんですけれども、作品に後で現れてきます。でき上がってしばらくしますと、自分が想像していたイメージからかけ離れたところで完成してしまうんです。それが本当の意味で完成していれば、作品が寂しくても、別に問題はなかったんです。それがなぜか中途半端だったんですよ。ですから普段通り制作していましたけれども、3年くらい作品が全くできなかったんです。


SIVER MOON
ed.80 45.5×33p
銅版画

SIVER MOON(BOYHOOD)
ed.80 45.5×33p
銅版画

PILGRIMAGE
ed.80 30.5×20p
銅版画

・・・ある意味充電期間だったのではないですか。

もう充電期間は遠くの昔に過ぎてますよ。この年になって充電期間はつらいですよ(笑)。とりあえず復活したから、いいようなもののね。

・・・でも、小浦さんの作品は、人に希望と夢を与える作品ですから・・・。

そう。やっとスランプを乗り越えて、希望が描けるようになってきたんです。最近みんな後ろ向きだけれども、「明日に向かって元気出だしていきましょう」みたいなね。今は加速度的に作品がまとまり始めていますから、もう大丈夫です。

・・・それはよかったです。赤いシリーズも青いシリーズも美しいけれども、どちらかといえば、青のシリーズの美しさというのは、小浦さんでなければ出来ないように思います。

そういう方向で努力して作りました(笑)。青が響いてくれればいいなと思っています。今回の作品は、今までのようなブルーではなくて、随分違った色味になっていると思います。コバルトとかヴァイオレットが強いですからね。それまではどんよりしたブルーの感じでしたから、でもそれはアンコとチョコレートの違いみたいなものかな(笑)。

・・・先ほど版画は連続性が必要だと言われましたが、技法だけでなく作品にも言えるのではないですか、小浦ワールドでは、少年のころに思い描いた夢の世界が、果てしなく広がり続ける。確かに生活世界の中で暮らしていますから、色んな要因によって分断されることもあるかもしれないけれども、フィードバックしながら続いていくといいますか。

そうですね。少し成長しましたね。確かに若い時の「昔の物語」と、今の「昔の物語」というのは、似ているようでいて違いますね。
ただ、物語は、描いているうちに段々と出てくるんです。イメージは頭の中に浮かんでいることなので、時間とか空間が混沌とした状態になっているわけです。それを紙に描き起こせば、物に置きかえなければいけません。物に置きかえるときに、いきなり物に置きかえられませんので、何となくぼやっとしたイメージの形に置きかえる。それを絵にできそうなものから、段々形を具現化していきます。異質な所からのものですから、統一しなければいけませんので、統一する時に、物語を作るんです。

・・・カオスがコスモスとして現れ出るときに、物語が生まれるわけですね。

もしそこに人が必要ならば、その人はどういうことを目的にして、そこにいるんだろうか、ということを考えながら、人の形や動作をつけていくのです。その辺でストーリーが、段々と出来上がってくるんですよ。

・・・小浦さんの技法はアクアティント。腐蝕(ふしょく)が必要ですよね。その物語のイメージは、腐蝕とかかわりがありますか。

アクアティントは、硝酸で腐蝕するんですけれども、腐蝕液に浸すと版が見えないわけです。そういうときに泡の立ち具合で、腐蝕はどのくらい迄進んでいるか、想像をつけていくわけです。版にぼかした部分があるとしますと、ぼかしていることで空間が生まれるとか、ゆがみとかが出てくるんですけれども、それを泡の具合を見ながら作っていくわけです。イメージは別にあるんですよ。ですからそれこそ、腐蝕液との折り合い。自分の絵を作っていくときの泡の立ち方との折り合。それとつけている時間(その時間で泡の立ち具合が違うのだけれど)、その辺に何かあるかもしれないですが、かかわりがあるかどうかは、難しいところですね。


AIR SHIP(VOYAGE)  ed.80 24×63.5p  銅版画

・・・では、腐蝕液に、ゆだねるということはないのですか。

どちらかといいますと、腐蝕液を制御する方が強いですね。ゆだねるという気持ちよりも、何とか自分のものにしようと思います。そうしないとやはり、作品が自分から距離を置いて、離れていってしまうんですよ。要するに機械的になってしまうんです。腐蝕液は、鉄や銅が溶けるくらい強いものですし、プリントは機械で刷るわけですから、印刷物にみたいになってしまいます。それを何とか、自分のものにしたい。血の通っているものにしたい。だからできるだけ温(ぬく)もりがあるもの、腐蝕にしても何にしても、自分の意思で、ここまでやったんだという痕跡を残したいという方が強いですね。

・・・確かに温(ぬく)もりを取ってしまったら、寂しくなりますものね。お話をお聞きしていて、小浦ワールドの温かさの秘密がわかったように思います。これから先はいかがでしょうか。

お休みをしてしまいましたので、作らなければいけない状況にあって、今まで制作してきた中で、多分今年が一番制作するようになると思います。たくさん作って、たくさんの方に見てもらいたいと思っています。

〜28日(金)まで。


MUKASHI MITA EIGA 画集(10枚組)  ed.20  銅版画

版画は限定150ぐらいあるんですが、版画集はをそんなに作れないので、限定は20ぐらいにしているんです。タイトルは「昔見た映画」小浦さんは、自画、自刻、自刷すべて自分でされるので、エディションはそんなに作ることはできないのです。

(c)KOURA NOBORU


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