■略歴  

渡辺晃一(WATANABE,Koichi)  
美術家、造形作家。 01年から 文部科学省派遣在外研修員としてアメリカ、イギリスに滞在。
主な著書に『4本足のニワトリ』(宮脇理編)、『絵画の教科書』(谷川渥監修)。
主な個展に「Veronica」(斎藤記念川口現代美術館)、「疾走する肌膚 ×大野一雄」(川口現代美術館スタジオ)、「On An Earth 」(Zoller gallery /ペンシルバニア)、「Flower & Family」(Christ Church /ロンドン)、「Outward<-> in the World」(Century Gallery/ロンドン)他。主なグループ展に「VOCA'97 現代美術の展望」、「越後妻有アートトリエンナーレ」、その他、北海道立近代美術館、板橋区立美術館、福島県立美術館、フランス、ポーランド、バングラデッシュなどの企画展等多数。


photo :末正真礼生

・・・タイトルの「Danae(ダナエ)」についてご説明いただけますか?

「Danae(ダナエ)」というタイトルを考えたのは、まず、本展覧会の作品が「ダナエ」という名前の機器を用いて制作したから。それとギリシア神話の「ダナエ」のテーマを重ねました。NECが開発した3次元計測機器(3-Dデジタイザ)の「ダナエ」は、人間が大きな箱形のボックスに入って、瞬間的に多方向から撮影し、3次元のデジタル画像に置き換える装置です。私はこの「ダナエ」を使用して、数年前から全身の人体、裸体像を何作か制作してきいました。そしてその展開として、今年、ダンサーの平山素子さんにモデルとなっていただき、踊りの瞬間のポーズを何作かデジタル画像に置き換えてきました。それを光樹脂を用いて、等身大の姿で制作したものがこれです。

・・・正面右に立っている像ですね。

そうです。この作品のポイントは、台座なしに立っていること。以前から「重力」と「肌膚」をキーワードに制作していると話してきましたが
http:// www.kgs-tokyo.jp/interview/2005/050831a/050831a.htm)、今回はギリシア神話の「Danae」(詳しくは★)と関連させました。ティツィアーノやレンブラント、クリムトも主題にしている美の化身の物語ですよね。「黄金の雨」という自然の重力に導かれる力と、「光の型取り」で制作している点が結びついています。

★Danae の物語
ペロポネソス半島にある国、アルゴスの王は、ある予言を与えられた。「お前に男の子は授からない。それどころか、お前は孫に殺されるだろう。」アクリシス王には一人娘、ダナエがいた。王はダナエが男と出会い、孫を生まないように、青銅の扉のついた塔に閉じ込めた。しかし、ダナエはとても美しく、そのため、ゼウス神の目にとまってしまう。ある夜、ゼウスは、黄金の雨の雫に姿を変えて、ダナエと交わる。閉じ込めたはずのダナエに男の子が生まれ、王は苦悩し、娘ダナエと孫ペルセウスを箱舟に閉じ込め、海に流した・・・。


photo :柏木久育

・・・正面のヴィデオ映像の作品で、ダンサーの平山さんが雨(ゼウスの象徴である黄金の雨)の中で踊っているのは、ギリシア神話を象徴しているわけですね。そして「Danae(ダナエ)」には、美をベースに置きながら重力というキーワードが含まれている。確かDanaeという小惑星もありましたよね。

はい。地球の重力に引き寄せられる自然物としての雨、また平山さんが球状のステンレスの頂点で踊っている身体に加わる垂直方向の力と、立像が「重力」を象徴しています。

・・・重力が垂直方向の力だとすると、ヴィデオ映像の両側に設置された鏡は、奥行きと横の広がりを象徴しているということでしょうか?

そうです。広がりと増幅する力です。一つのものを増幅させる「版」というものに、私はとても興味があります。「型取り」は、肌膚との接触と複製、増殖するものですよね。ですから視覚的なイメージとしての「鏡」と、型を通して制作する「版」の原理は、同じく重要な意味を担っています。ただ、前回の作品は、重力そのものを意識した「静的な人体」だったけど、今回は「動き」をかなり意識しています。例えば、この動く瞬間を石膏で型に取ろうとすると、何時間も同じポーズの状態で動けず、モデルさんにも負担をかけます。しかしこの「Danae(ダナエ)」という機械を使うと、4秒位で撮影できてしまうんです。そのデジタル情報を「光樹脂」に置き換えました。

・・・光が樹脂に置き換わるのですか?

デジタルの「光の点」だけを、そのまま固める樹脂があるんですよ。5000万円以上する機械で、材料もとても高価なので、日本ではあまり等身大の人体を制作する機会は少なかったと思いますよ。以前、私が小さい作品を作った際、10万円位しました。今回のは材料費だけでも400万円近くするでしょうね。他にも研削機を用いて制作する方法も可能だったのですが、このような複雑で動きのある姿だと、抜け勾配というか、身体の奥まった場所を細かく表現することが難しい。光樹脂だとどこでも細かく入りこめるという利点があって、瞬間の姿をそのまま形にすることができるんです。今回は、本作品の制作を、福島市にある宮本樹脂工業の協力のもと実現できました。本当に感謝しています。

・・・正面に設置されたビデオを拝見していると、不思議な躍動感と共に、踊ることによって相似形が生まれる姿は、細胞の核分裂のようにも見えますね。静と動、生命と死・・・様々な多義的なキーワードが隠れていて、見る度に色々なことに気づかされます。

「舞踏は突っ立った死体」という言い方があるけれど、重力に負けると言うのは死を意味する。逆に、樹木や植物などもそうですが、「生きている」ということは重力に逆らっているものだと思います。例えば彫刻などの作品も「立つ」ということをキーワードにしていますが、台座によって支えられているものが多い。私はこの「重力=立つこと=生命」との関係性を一貫して制作してきました。


photo :末正真礼生

・・・「重力に逆らって伸びる」という言葉をお聞きして、養老孟司さんの「唯脳論」で「個体発生は系統発生を繰り返す」という言葉と「個体発生と系統発生、さらに進化論的認識論の模式図」を見たことがあるんです。難しいことは分かりませんが、その図を見たときに、生命や進化というのはラセンを描きながら上昇していくものなんだなと思いました。そしてこのダンスをモチーフにしたインスタレーションは、「形はリズム」ということが通底されているのではないかと・・・。以前の映像はモノクロで、今回カラーというのも生命をより意識されているのではないかと思います。

「個体発生は系統発生を繰り返す」というのはヘッケルの学説ですね。胎児がお母さんのお腹の中で成長していく姿が、魚類から爬虫類、人間へと進化する系統発生と重ねたもの。それをよく語っていた方に三木成夫先生がいます。三木先生は養老先生の先輩にあたります。私は1995年に「生命形態と美術教育 三木成夫の解剖学からの接近」という論文で教育美術賞を頂きました。今も三木先生の影響を受けているので、今回の作品とも何か無意識に関連するかも知れませんね。ただ「重力」の問題は、「個体発生・・」よりも「ラセン」というキーワードの方が適しているかもしれない。三木さんは「ラセン」の構造を内向性と外向性から説明していました。例えば人間の体は内側に向けて血管や神経が枝分かれに広がっている。一方、樹木は、地球の外側に向けて枝葉を伸ばしている。その枝葉の伸ばし方というのが、ラセン構造に巻いている。


photo :柏木久育

・・・すごく不思議ですね。

地球を一つのボールに例えたときに、外側に向かって成長している樹木の構造をぐるっと反転すると、人体内の血管の姿と重なってくる。三木さんは解剖学で人体の内部を勉強すれば、結果的に地球の外側、宇宙の構造がわかると言っていた。それは同じく重力の方向の内側と外側に向けられた「生命力」の関係と均衡しますよね。ただ直裁的にこの作品の中で、そこまで意識していた訳ではありませんが(笑)。この光樹脂の人体像にしても、平山さんのダンスのヴィデオ映像にしても、結果的に美しい「ラセン」の動きをしているとは思います。

・・・身体の内部は宇宙とフラクタルの関係にあるということですか。ただ実際に自分の体であっても中々内部の構造はわからないけれども、美術は、それを表現することができる。それが美術の醍醐味かもしれない。「Danae(ダナエ)」のような凄い機械が開発されると、次々と作品がダイナミックになって、これからの展開がとても楽しみです。

「Art(美術)」は「身体」を基盤にして「美」を追い求めてきたとも言えます。感覚や造形の対象としての「身体」。私にとっても「身体」は重要な主題であり、そこから「重力」や「肌膚」というテーマも生まれました。美術を通して「身体」を学んでいくことは今後とも大切だと思っています。ちょうど今年の夏は、神奈川県の教育センターや鎌倉の美術館で「身体」、「立つこと」をキーワードにしたワークショップを開催します。また今回のコバヤシ画廊で、7月18日に、平山素子さんのダンスパフォーマンスの追加公演も開催されるので、是非魅力的な「身体」をご覧いただければと思います。

〜22日(土)まで。

 


平山素子 ダンス公演:7月12日(水)18:20〜、17日(月)13:30〜、18日(火)18:00〜。
(公演会30分前から公演時間は、画廊に入るためにチケットが必要です。)

 

協力:NECエンジニアリング株式会社、株式会社宮本樹脂工業、株式会社紀文フードケミファ、下村石膏株式会社

平山素子(HIRAYAMA, Motoko)  
コンテンポラリーダンサー&振付家。
99年世界バレエ&モダンダンスコンクールにて、モダンダンス部門金メダルとニジンスキー賞をダブル受賞。音楽舞踊新聞‘00年間ベストダンサーに選出。 01年文化庁派遣在外研修員としてベルギー留学。05年、新国立劇場コンテンポラリーダンス ダンスプラネットNo.18「「舞姫と牧神達の午後」」にて新作デュオ『Buttefly』を発表、兵庫県立芸術文化センター「オープニング・バレエ・ガラ」にて、ニジンスキー振付初演版『春の祭典』の復元上演。 06年、自ら演出・構成を手がけた独舞『雪女』を発表、さらにボリショイ劇場バレエ団の招聘により渡露、ソロ作品『Revelation』を振付。06 年、中川鋭之助賞受賞。07年に新国立劇場企画のソロ公演、『Life Casting 型取られた生命』を発表予定である。


photo :柏木久育

(c)WATANABE KOICHI